2007年09月11日

鹿島茂『勝つための論文の書き方』(文春新書)



以前チラッと紹介した鹿島茂『勝つための論文の書き方』を読了した。以前紹介したときには、以下の部分を引用しておいた。

「論文というのは、自分の頭でものを考えるために長い年月にわたって練り上げられた古典的な形式なので、ビジネスだろうと、政治だろうと、なんにでも応用がきくのです。いいかえれば、優れた論文作成能力を獲得している人は、優秀な学者になれるばかりか、優秀なビジネスマンにも、優秀な政治家にもなることができるのです。」(p.221)

今回通読してみて、確かにそういう面はあると思った。というのは、本書で一番強調されているのは、「問題の立て方」だからである。

論文というのはオリジナルな・意味のある・問題を立てて、それを考察し、論証して、最終的に解答を出すという形をとっている。そうであるならば、この形式は何も学問に限ったお話ではなくて、日常生活であれ、ビジネスであれ、応用可能な汎用性を持っているといえる。

以前テレビで、廃タイヤから出るチューブをなんとかリサイクルできないものか?との問いを立てて、ゴムの弾力性に目をつけて、ノートパソコンを入れるケースの素材として採用し、成功をおさめたケースが紹介されていた。これなどは、「廃タイヤから出るチューブをなんとかリサイクルできないものか?」という独創的な問いを立てた時点で、ほぼ勝負あったという感じである。つまり、論文でもビジネスでも、一番難しく、かつ一番重要なのは、問いの立て方なのであって、ユニークな面白い問いを立てることさえできれば、優れたものを創り出せる可能性がグッと高まるわけである。

そういう観点から、本書では問題の立て方が重視され、その解説が中心になっているといってもよい。

本書でも指摘されているが、日本の学校教育の最大の問題点は、こういった問いの立て方を教えないという点だと思う。それどころか、問題はすでに存在しており、その解答も決まっている、そういう問題を解くことのみを訓練させられるのである。それゆえ、偏差値が高い者は、自分で問題を発見するとか問いを立てるとか、そういった発想を持てなくなってしまう。これでは学問ができない。自分の専門分野の全てを学んで問うてこそ学問なのだから。

さて本書では、まず、「問いは、比較からしか生まれない」として、問いを見つける基本的方法を二つ挙げている。「縦軸に移動する」と「横軸に移動する」である。これらは言語学でいうところの通時的比較と共時的比較に対応する。次に、見つけた差異と類似を分析する方法や、仮説による検討でその問いが本質的なものかどうかをチェックする方法が説かれる。

そして最後に、未聞の問いを発想する最大のポイントとして、構造把握力を挙げている。これは丸谷才一言うところの見立て力であり、レヴィ=ストロース的にいうとブリコラージュということになる。ここに関して鹿島教授は次のようにまとめている。

「ある分野で培った見立て力=構造把握力を、他の新しい分野にも応用し、そこに共通の型を見抜いて、問題を見つける。これが、前人未踏というよりも、前人未問の問いを立てるために必要不可欠の方法です。」(p.77)

ここから、複数の専門分野を持つ必要性について説いていく。

これを読むと、複数の専門分野を持つ必要性というのは、われわれの立場的には一般教養の重要性ということであるし、構造把握力というのは、弁証法的な論理能力ということになると思う。われわれはある意味、未問の問いを立てるために一般教養と直接に弁証法を学んでいるといえなくもないだろう。

鹿島教授はフランス文学及びフランス文化を専門とする人文系の人であるが、この論文の書き方の本は、人文系に限らず、自然科学や心理学の論文の書き方としても、十分通用する普遍性を持っていると思う。僕も誰も立てたことのないようなオリジナルで意義のある問いを発見して、立派な論文を書きあげたいものだ。
posted by 寄筆一元 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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