2007年03月24日

山村修『<狐>が選んだ入門書』(ちくま新書)



お父さんたちが通勤電車で手にする夕刊紙「日刊ゲンダイ」で22年間の長期連載となった<狐の書評>を書いてきた匿名の書評家<狐>が、初めて覆面をとって各分野から選んだ25冊をめぐって読書の愉しみを説いた本。

<狐>こと山村修氏は昨年に亡くなったそうだ。僕は日刊ゲンダイも読んだことがないし、当然そこに連載されていた<狐の書評>も読んだことはないが、この本を読むと、さぞかし面白い書評だったのだろう、と想像してしまう。

そもそも本を読むというのは、ある種、新しい世界との出会いでもあるわけだが、山村氏はその新しい世界を愉しく紹介してくれる人だと思った。

たとえば、僕は今まで「美術」というものに、それほど関心がなかったけれども、武者小路路穣『改訂増補日本美術史』の書評を読んで、速攻でこの本を注文してしまった。この本は、「日本美術の全史を平明・簡潔にガイドする『早わかり』の傑作」(p.183)なのあるが、ふつうの歴史教科書のような無味乾燥さを免れているそうだ。海外との文化的なつながりに目配りがなされており、「没個性どころか、この本には著者ならではの見解が、しばしば文面にさりげなく浮上してきます」(p.186)と解説されている。また、引用箇所が絶妙なせいもあるかもしれない。とにかく、読んでみたくなる書評なのだ。

他にも、武藤康史『国語辞典の名語釈』、萩原朔太郎選評『恋愛名歌集』、内藤湖南『日本文化史研究』、岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』などなど、読んでみたい! と思わせる書評が多かった。

また、文章の書き方、もっと限定して、書評の書き方、という点でも、学ぶことがあったように思う。というより、書評書きというのも面白い仕事だと思わせる何かがあったという気がする。

僕も、人を新しい世界に誘う<狐>氏のような仕事がしたいと思ったしだいである。
posted by 寄筆一元 at 03:18| Comment(2) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
貴兄の案内は充分に「読みたくなる」文章ですよ。私も『日本美術史』を入手したくなりました。
書評というものは、えてして覆面で、匿名で発表したもののほうが、面白いものです。昔は『風の書評』なんてのもありました。谷沢栄一のように、堂々名乗って、こてんぱんにこき下ろすのも面白かったりしますが。
覆面は卑怯だという側面がないわけではありませんが、現状は同業者同士の内輪褒めになりますから、覆面のほうが、一般読者にとっては面白いのでしょうね。
武者小路氏の本の読後感をまたブログで発表してください。南郷師範が『弁証法・認識論への道』で説かれたように、この方は、美術家はなぜ描くのかが人類の認識の発展史を踏まえて、きちんと説けているのでしょうね?
Posted by 流蛍 at 2007年03月25日 08:00
流蛍さん、コメントありがとうございます。

『日本美術史』を読んだら、また読後感でも書いてみます。しかし、

>この方は、美術家はなぜ描くのかが人類の認識の発展史を踏まえて、
>きちんと説けているのでしょうね?

これは無理な注文という気がしますが。
Posted by 寄筆一元 at 2007年03月26日 00:11
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