2010年06月14日

日本酒を楽しめるお店の条件

京都には日本酒を楽しめるお店(居酒屋)がたくさんある。関東から来られた方にうかがうと,日本酒に関しては,関東ではあり得ないくらいの充実度のお店が多いということである。十四代や東一など,全国的に有名な銘柄を揃えているお店も多いし,こだわりの地酒を置いている店や,隠しメニューを用意している店もある。このような多様な銘柄を揃えているというのは,日本酒を楽しむ際の最低条件といえるだろう。いくらおいしい地酒でも,1種類しかないとなれば飲み比べることができないので。では,それ以外に,日本酒を楽しめるお店の条件としてはどんなことが挙げられるだろうか? 個人的には,次の3つの条件はクリアーしてほしいところである。

第1に,テーブルまで瓶を持ってきて,その場で注いでくれる,ということである。これはきわめて常識的でありながら,非常に大切な点である。もし店の奥で注いで持ってくるのであれば,それが本当に注文したお酒であるかどうか,確認のしようがない。もちろん,飲み慣れているお酒であれば,味でもってその銘柄を判別することも可能である。しかし,はじめて味わうお酒であるとか,季節限定のお酒であるとかいった場合は,実際に瓶で確認しないことには本物であるかどうかしっかりと確認することができないのである。さらに,瓶に貼ってあるラベルも重要だ。「黒龍」とか「臥龍梅」とかいった銘柄名が,見事な筆さばきで書かれていれば,それだけでその酒のレベルが分かるというものである。ラベルはその酒の顔であり,杜氏や酒蔵の思想性の表現という一面を持っているのである。これを味わうためにも,テーブルまで瓶を持ってきて,その場で注ぎ,しばらく瓶をテーブルにおいていてくれるお店が理想的である。

第2に,日本酒と同時にお冷やを持ってきてくれるという点である。日本酒というものは,水と交互に飲むものなのである。なぜか? 一つには,酔わないように,酔いを穏やかにするように,するためである。特にこだわりのお店がおいている「原酒」と呼ばれる種類の日本酒は,通常の日本酒よりもアルコール度数が高く,適宜水を飲んでいかないと,すぐに酔ってしまうことになる。また,日本酒を飲む場合は,がつがつと料理を食べるというようなことはないから,余計に酔いやすい条件がある。したがって,この意味からも水を飲むことは大切だということになる。水を飲む2つ目の理由は,違う種類のお酒を飲む際に,一度舌をリセットする必要があるからである。続けて別の種類のお酒を飲んでしまうと,舌に前のお酒の余韻が残ってしまっており,後に飲んだお酒の純粋な味がよくわからなくなってしまうのである。そのために,一度水を口に含んでリセットする必要があるのである。

日本酒を楽しめるお店の条件の第3は,日本酒に関しての社員教育を徹底しており,店員が日本酒について知識を豊富に持っている,ということである。注文をとりに来る店員に,「お勧めの日本酒は?」とか,「フルーティーな感じのを飲みたいのですが」とかいった場合,「では,これがお勧めです」と自信を持っていえるようでないと,安心して日本酒を楽しめない。「ちょっと分かる者に聞いてきます」とかいわれるようでは,白けてしまう。店に置いているお酒の特徴をしっかり把握して,適切に言語表現できる,店員の1人1人がそのようなレベルのお店は,店主の教育が行き届いているといえるだろう。そのようなお店なら,店員の方と相談して,今まで飲んだことのないお酒でも安心して挑戦できるし,日本酒の奥深さ,文化の高みといったものを,新たに発見できる可能性も広がるというものである。

以上,日本酒を楽しめるお店の条件を3つ挙げた。テーブルまで瓶を持ってきて注いでくれること,お冷やを一緒に持ってきてくれること,店員が日本酒に関しての知識を十分に持ち合わせていること,の3点であった。昨日例会後に行った行きつけのお店は,見事にこの3つの条件を満たしている。何年か前に初めて行ったときには,お冷やは持ってきてくれなかったのだが,こちらからの注文ということで指摘すると,すぐに取り入れてくれたようだ。次からは,何も言わなくてもお冷やを持ってきてくれるようになった。当然,瓶はテーブルにしばらく置いていてくれるし,店員の知識も十分だ。昨日も,斉藤酒造の「やどりぎ」という,そこら辺には売っていないお酒を勧めてくれた。しかも,酵母だけ違う二種類の「やどりぎ」を飲み比べてみてはどうか,と提案してくれたのである。この2つを飲み比べることによって,酵母の違いによる特殊性と同時に,「やどりぎ」一般のイメージもヨリ広がった。その後,「やどりぎ」とは全く別の,逆系統のお酒を注文したところ,「しっかりとした味の辛口のお酒ですね」といって,「花垣」という福井のお酒を持ってきてくれた。この言葉を聞いただけで日本酒が分かっている人だと安心したことであった。案の定,初めて飲んだ「花垣」はしっかりとした味わい深いお酒だった。お漬け物などのつまみと,日本酒を計3合飲んだにもかかわらず,3000円ちょっとというかなり良心的な値段で,その点でも好感が持てた。

このお店のようなレベルのお店を他にも開拓していきたいものである。
posted by 寄筆一元 at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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