この方は学校の先生で、TOSS(教育技術法則化運動)いう団体で熱心に教育技術を磨いておられる。TOSSでの模擬授業の様子や、教師の段位について、いろいろと教えていただいた。何でも、有段者になると、おそろしいまでの実力を把持されているそうだ。模擬授業に臨む際には、「身の丈の本」を読んでくることが要求されるという。しかも、本を一冊ずつ積み上げて、「身の丈」にするのではない。本をぎっしり詰めた段ボールを積み上げて、「身の丈」になるまで、本を渉猟し、研究して、その成果を教え子に還元するのである。
せっかく身の丈の本を読んで模擬授業に臨んでも、わずか5秒(?)くらいで、ストップがかかってしまうことがあるという。技を見る目を持つ達人が見れば、5秒でその人の実力が読み取れるのであろう。視線の配り方、立ち方、歩き方、声の出し方、生徒の引きつける技術、等々、基本的なポイントから高度な技術に至るまで、達人は無意識のうちに実践できるし、他人の実践も、そのような様々な観点から、バシッと評価できる。達人になるまでには、どれほどの意識的な修行が積み重ねられたのか、想像を絶するほどであろう。
原田隆史氏とは違うが、向山洋一氏も強烈な理念を持って教育に携わってこられたのだと思う。一般の塾講師のニーズには、原田隆史氏より向山洋一氏の方がぴったり合う気がした。
それにしても、人に語れるものをたくさん持っている人間というのは、非常に魅力的だと感じた。今回出会った方は、話が尽きることなく、次から次へと興味深いお話をしてくださった。酒に酔っておられたからであろう、おそれおおくも、「ビートルズのことであれば、向山先生にも、○○師範(怖くて書けない)にも負けない!」と豪語しておられた。事実かどうかはともかく、それくらい自信を持って語れるものがあるというのは凄いことだ。非常に有意義だった。と同時に、それほど語れるものを持っていない自分が、何か情けないというか、個性に欠けるというか、そんな惨めな感じもしないでもなかった。
(自分用メモ)
南郷継正『武道広義第四巻 武道と弁証法の理論』(三一書房、少し前まで品切れで入手困難だったと思うが、最近はアマゾンで普通に入手できる)pp.340-342で初めて向山洋一氏の存在を知ったわけだが、その後私は、氏の著作で基本書的なものとして位置付けられている『授業の腕をあげる法則』と『子供を動かす法則』(ともに明治図書)しか購入していなかった。ところが最近、『武道広義第四巻』で触れられていた「上達論の先駆者・南郷継正」なる小論の内容を知る機会があった。衝撃の事実が説かれていた。なぜもっと早くにこの小論を読まなかったのか、少々後悔した。