以前からタイトルが気になっていた本である。目次等を見ると、認知心理学を基礎としてるようなので、ちょっと買ってみようという気になった。
端的には、記憶と認知の心理学に基づき、上達の力学が<スキーマ>や<コード化>にあることを解明し、そこから独自の「上達の法則」を展開している本である。
心理学で言うところのスキーマが、「問いかけ像(感情レベルの記憶像=気持ちがこもっている記憶像)=目的的像」(海保静子『育児の認識学』pp.154-155)のこと指したいのだろうと言うことは以前からわかっていた(もっとも、心理学でも「スキーマとは何か」は明確ではなく、曖昧に使っているようだが)。今回コードやコードシステム、コード化など、「コード」という言葉が頻繁に出てきており、それがひとつのカナメとなっているわけだが、これは我々の言葉で言うと(などというと偉そうだが)、「論理」ということだと今気付いた。少し引用してみよう。
「コード化が不十分なものについては、認識が不十分になる。中級者では、細かな技能についてコード(言語でなくてもよい)が十分に形成されていないので、細かな技能が認知の網にかかりにくいのである。」(p.112)
「コードが豊かになったこの時点では、ひとつの記憶事象に関連して想起されることの豊かさが10倍くらいにも増大している。」(p.209)
そもそも論理とは、対象の構造=性質を一般的に把握したものであるが、この論理がないと頭の中に像を結ばない。たとえば、弁証法の論理に「量質転化」(量的な変化が質的な変化をもたらす)というのがあるが、弁証法の初学者や中級者は、この論理が頭の中にしっかりと形成されていないので、上級者が見れば量質転化と捉えられる事実を見ても、量質転化とは反映しない。ところが、この論理と事実を繋げる訓練をくり返すと、量質転化という論理の厚みが増して、「量質転化とは、たとえば」といって想起できる事実が格段に増大する。おおよそ、こういうことが、認知心理学的な枠組みで説いてあるのだと理解した。
他にも興味深いことが書かれていたので、箇条書きにしてみる(自分なりの要約)。
1.ノートを取る意義は、読み返すことによって、すなわち自分の経験を追体験することによって、一度きりの体験の価値を高めることにある。
2.未熟だからこそ理論が必要。経験不足を理論で補うのである。たとえば英文法の知識は初学者こそ必要である。
3.何か一つのモノを決めて、それを精密に学ぶということをやってみるべきである。一点突破である。
4.模倣は学習の基本である。精密練習のひとつの手段として、「深い模倣」が有効である。基本書の筆写・音読などによって、指導者(達人)の立場に観念的に二重化するのである。
5.「本当にアクティブな記憶事項となるのは、情感のインデックスが認知のなかでうまく形成されたものだけである。」(五感情像?)
6.中級者は、対象の善し悪しが理屈でわかる。上級者や達人はそれが直観でわかる。贋物を見たときは、まず理屈なしに「おかしい」とわかるのである。
7.本当に上達するケースは、最初のうちは進歩が遅い。スキーマの形成に時間がかかるのだ。簡単に上達してはならない!